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vol.4 「多段引出し」飴色の色彩表現

多段引出しは機能的な商工用ニーズのかおをもっている・・・

 多段引出しは2000年ごろから人気が出た。収納力があり、機能的でいて、金具が並んでいて少し無骨。場所もとらず、存在感があるということで一時かなり売れた。
 
 最近ではその人気にあやかってリプロダクトの製品が通販などでもたくさん手に入るし、前金具だけてにいれてDIYでリメークしてしまおうという人も多い。
 
 ただ、昔の上手の多段引出しで特にナラやケヤキで丁寧に作られているものは今でも別格で、強度もあり希少価値も高く、やはりすごくかっこいい。トチの縮み杢なんてもう最高で有る。
 
 かつての業務用品として書類だけで無く、物品の仕分けケースとしても使われていたので、大変堅牢にできており、リメーク品ではこの上質な雰囲気には絶対に届かない。
 

木工の工程が終わるとこんな感じになります。

 

修理とはなんだろ?

 ただ、多段引出しは工房泣かせの品であり、販売部門からはいつも督促があるがなかなかに応じかねる。
 
 まず、引き出しが多いので分解洗浄に異様に手間がかかる。塗装の剥離にも思わぬほど時間がかかる上、使用頻度が高い品物が多く破断などのヘビーな木工部品の交換も課題となる。そして、塗り師・・・塗装部門は引出しの数だけ同じ手間を反復的に繰り返すことになる。
 
 つまり、真面目に修復しようとすればするほど手間がかかるのだけれど、販売部門に聞くと価格は極めて安い。不当に安い。小売価格が18000円などと言われると少しムッとしてしまう。
 
 それでも、京都市内の他店などで未修理品にボンド付けして適当に直し、少し色当てしたものが、5000円とか7000円などの値段で売られているのだから、お客さんによっては18000円などという「不当な高価」を言われると目をムク人がおおいらしい。
 

引出しの分だけ作業が必要

 

「不当な高価」としての迷路

 もちろん、「不当な高価」と言われると本当に困ってしまう。悲しくもなる。
 
 大切に清潔に使ってもらえるように、洗浄して、分解する手間と、もう一度修正して組み直す手間には丁寧な仕事を心がけている。何より、塗装は一度完全に塗装を落とし、木質を回復する下処理を丁寧に行ってから再塗装し、それを再び剥がすことを繰り返している。
 
 引き出しが多いからといって手抜きはしていない。そういうと必ず販売部門から、「そういう問題ではないです。」と釘をさされる。
 

木釘のほうが絶対に良い

 

 

 当然、底板の杉の無垢板は上材は使わない。節や木色があるB級のものを使う機会も多い。それでも無垢板であり、ベニアの合板というわけにはいかない。まして、もともと木釘で締めてあるものを、「販売価格」を理由に鉄釘なんか使えない。
 
 鉄釘を使うと問題も多い。磨耗が進み始めると、木が削れて鉄の部分だけが浮き出し、それが表板を削り傷をつけてしまう。それがわかっているから、とてもではないが鉄釘は使えない。作った人に失礼だと思ってしまう。
 

丁寧にはがすとこのようになる

 

飴色のアンティークは古色再現という色彩表現。

 一度完全に塗装を落とすのも理由がある。
 
 塗装が極度に劣化している場合は、白濁しており、木目の良さがほぼわからない。もともとアンティーク家具の良さは無垢材を使っていることがその一つなのだから、木目と風合いを楽しめてこそであり古い塗装で透明度を失っているものはまずその意味がない。
 
 まして、木質も丁寧なオイルアップがされてきたものを除けば、大抵極度に劣化が進んでいる。全体に塗装を剥離しないと湿潤液が浸透せず木質が回復できないし、まだらになってしまう。つまり塗装は剥離が前提となる。つまり、剥離は必要で欠かす事のできない作業となる。
 

木質は少しずつ回復していくラワン材でもこの程度には深みが増す

 

 

 下地処理が木工塗装の基本で、ここで手を抜くと、結局、木製家具の深い風合いは蘇らせることはできない。そして、その後の塗装作業の良し悪しは下処理のいかんにかかってくる。
 
 販売部門に適切に品質を下げずにコストを下げれば他店に対抗できると言われても、それは一休さんの「この橋渡るべからず」のトンチ問答のようなもので、無理なものは無理なのであるのです・・・と声は消え入る。
 
 さらに塗装後に経年処理を引出しの数の分だけ繰り返すのだけれど、これは大型の箪笥と差して手間が変わらない。
 
 大型の箪笥類は流石に二桁はするのだけれど、多段引出しの場合はどんなに誠心誠意ものに向き合っていてさえ、18000円は「不当な高価」だという評価になってしまうものらしい。
 

これで下塗装が終わった状態。あとは化学処理。そして勝負はここから。

 

届かない誠意とさらなる努力の必要性

  古色直しはその仕上がりが手間をかければかけるほど自然な雰囲気になり、程度よく使われてきたベストコンディションのアンティークとさして見た目の差分を見つけることが困難になるという技術。共直しであり、化学的に経年変化をかけるので、塗ってそうしているわけではない。
 
 つまり、はっきり言えば、直していることが分かりにくい。塗り直しましたと言っても、販売部門曰く、お客さんには「どこを??」と聞かれるらしい。
 
 多段引出しの購入を迷っているという主旨のメールが工房に届いた。
 
 「あの飴色のアンティーク家具の光沢が忘れられないのだが、他店は7000円で、貴店は18000円である。味が良いからといって値段を釣り上げるのはけしからん事だ。」とその人は大変ご立腹だった。
 
 そういうご意見を前に「18000円はむしろ不当に安い」と考えてしまう工房の立場なかなか理解してもらえそうにない。
 
 もう、消え入るような気持ちになってしまう。そして、販売や仕入れの各部門に、「もう多段引出しは治したくありません。」と述べると100倍くらいの叱責が帰ってくる。
 
 多段引出しには罪がないが、引き出しが多い小型製品はやはりなかなか正統には評価してもらいにくい。
 
向日町工房
 

中身は新品、見かけは「そのまま大切にされてきた」アンティーク。

 
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