日本の古磁器「古伊万里と日本磁器」

料理を選ばない・・・「レシピのための永遠の舞台」

 
 陶器の様に磁器は多くを語りません。ですから、磁器は料理を素直に受け入れ、素直に引き立ててくれます。
 特に古い磁器にはより人の手の感覚に近い温かみがあり、磁器が持つ凛としたすずしさを少しだけほどいて、どんな料理でも受け入れてくれる温かい優しさがあります。

 
 江戸期の古伊万里はそうした意味で理想的な料理の舞台です。

 

幕末以降は瀬戸焼が肥前磁器を圧倒します。

 
 陶器よりはるかに硬質で割れにくく普段使いに向いていますし、200年を超える生産時期の広がりと江戸期を通してのその膨大な生産数により、様々な用途でつかえる比較的リーズナブルで手に入りやすいアンティークアイテムであり続けてきました。ですから誰でも、手に届く範囲で、様々なバリエーションの中から、じぶんにあったパートナーを見つけることが可能です。
 
 古伊万里などの日本磁器はたとえ盛り付けが完璧でなくても、食材が最高級でなくとも、本来の料理を何倍にも活かし料理を引き立てることで、食卓を広げ、食事という日々の営みを盛り上げてくれます。
 そのレパートリーとバリエーションは奥行きが深く、いくら持っていても、さらに次が欲しくなる・・・そして、まだまだ自分が知らなかった新しい魅力に出会うことができる。
 
 一つのカテゴリーでこれほど多様で豊かな広がりをもたらしてくれるアイテムは、まず他に見当たらない。それが古伊万里の魅力でもあり、魔力でもあったりするのです。
 Pro Antiques COMでは、日本磁器の店頭在庫2500アイテム以上の品揃えで、直接仕入れによって京都を中心に商家などの旧家から出た初だしの品をご用意しています。
 

明治期諸窯の磁器は古伊万里などとは別の独特の魅力をもっています

 

古伊万里と尽きない論争

 古い磁器がもつはりつめた気品は、盛り付けられた料理を何倍にも引き立てる効果を持っています。硬質な地肌がもつ優美さに、染付や錦絵のアクセントが加わることで、その舞台効果は一層高まります。
 17世紀までの磁器は輸入品であり、限られた王侯貴族と宗教者のみが持つ、ステータスシンボルでした。食器というより、それは宝物であり続け庶民の食卓を飾るものではありませんでした。 (注.1)
 
 しかしやがて磁器の製造技術が大陸から渡来し、肥前地方で1600年頃に本格的な国内生産が始まる事で、日本磁器の黄金期が到来します。
 「焼物王国」と言われる北九州の陶器量産技術と大陸から技術者とともに到来した磁器製造技術が融合し、そこに欧州市場のニーズが加わることで技術的な研鑽が高まり、国際色豊かな製品が生み出されることとなります。
 
 そこに強く佐賀鍋島藩が殖産政策上の視点で独占的に関与する形で、後に「古伊万里」と愛称される日本独特の焼物である和製磁器が大量に生産される様になります。 (注.2)
 
 
 江戸中期には商工業が勃興を始め、日本各地・・・津々浦々で豊かな食材を料理しそれを優美な器に盛るという楽しみが、食器の発達をさらに促し、様々な形の磁器が肥前地方から北前船などで大量に全国に流通する様になります。そして、今日では江戸期から明治期ごろまで製造された日本磁器を、アンティークとして生活に取り込み、実際に料理を盛り付けて楽しむことが確立したライフスタイルになりつつあります。
 
 骨董用語では江戸時代の佐賀周辺で作られた磁器群を「伊万里」と呼び、これはオランダ東インド会社の発注でヨーロッパ向けを含めて伊万里港から内外に出荷された肥前磁器の総称「伊万里=IMARI」をうけており、そのなかでも江戸後期頃までの製品を「古伊万里」と呼びます。 (注.3)
 
 
 
 しかし、実際には有田焼に加え有田周辺の古窯や波佐見・平戸・志田焼きなども骨董界では「古伊万里」に分類されることが多く、厳格に適用されることばではありません。正確に述べるなら、どちらかというと学術用語である「肥前磁器」という言葉があり、「肥前磁器」の呼称はそうした混乱を避けるためのもう少し大括りな表現です。
 
 昭和30年ごろから、その時代と生産地について、どこまでを「古伊万里」と呼ぶのかは議論が尽きない難題ですが、肥前磁器全体のニックネームとして古伊万里という言葉があると捉えるほうが、より本質に近いのかもしれません。
 
 そして、そうした定義に目くじらを立てる前に、より自由なきもちで器と向き合い、その手触りや雰囲気を味わい、器の魅力をひきだして生活に取り込むこと・・・そうした「わたし」たち自身の楽しみは、やはり定義や論争とは違う場所にありそうです。
 
Pro Antiques "COM"
 
 
(注.1) 「日本の対外関係(4) 倭寇と「日本国王」 」2010 荒野泰典 「日本陶磁の一万二千年 渡来の技独創の美」1994 矢部 良明
(注.2) 「鍋島藩窯とその周辺(増補改訂版)」1984 伊万里市郷土研究会
(注.3) 「アジアの海と伊万里」1994 大橋康二 「肥前の古窯 肥前陶磁器の故郷を訪ねて」 川口誠二 2001

常時、2500点の磁器店頭在庫。湖東や石部、砥部、大聖寺や九谷そして瀬戸なども。